Tribute to KUBRICK.

序章 十回忌を過ぎて……

Stanley Kubrick is ...

映画界の巨匠、スタンリー・キューブリックが亡くなった。 1999 年 3 月 7 日。享年 70 歳。遺作となった『アイズ ワイド シャット』の予告編と本編が、同年に世界で公開された。


映画監督としての彼の生涯は、日本で始めて公開された映画『非情の罠』から数えると四十余年にも達するが、実際に発表された作品は十数作品にすぎない。しかしながら遺された作品には、映像や音が、あたかも命を帯びたかのように、発表から年月を経た今もなお、鮮明なまま息づいている。


映画を手掛ける度に、撮影技術などを異様なまでに追求した。 SF 映画『 2001 年宇宙の旅』では宇宙生活場面の全てに科学的根拠を求め、近未来が舞台の『時計じかけのオレンジ』では 70 年代の当時としては最先端のノイズ・リダクション(雑音軽減装置)を採用し、古典劇『バリー・リンドン』では自然光の再現のためにシネマ・プロダクト社に新しいキャメラ・レンズを開発させ、ホラー映画『シャイニング』ではステディカム(携帯可能キャメラ)を効果的に使用した。ひとつの同じ場面を繰り返し撮る(晩年は百テイクを数えることも珍しくなかったという)、照明装置や、背景の小道具の位置調整だけに数日かける(組合と対立することもあった)……、彼が「完璧主義者」と呼ばれた所以だ。


『 2001 年宇宙の旅』が公開された 40 の頃には既に「巨匠」「天才」と呼ばれた。人前に出ることが極端に少ない彼は、当時から生き伝説と化していた。しかし彼がどんな人物であるかを知りたい衝動からか、様々な噂が飛び交った。それでも沈黙を守ったまま、新世紀を迎えることなく他界した。 SF 、時代劇、モダンホラー、戦争、恋愛……様々な主題の下に映画が紡ぎだされた。時に観客の解釈に委ねるような結末を示し、あるいは新技術による驚異の映像を銀幕に投影した。そこには、永遠に褪せることのない世界が息づいている。


雑誌「ルック」のキャメラマンという経歴を持つ彼の映画には、どんな場面にも必ず、同じ映像が存在する。色彩、構図、光と影の絶妙な均衡、流麗なトラヴェリング・ショット(移動撮影)の数々。それらはまるで優れた写真が音をつれて奥行きをもって動いているようだ。そんなキューブリック独特の映像美は、どの作品においても健在であり、不滅となり続けるだろう。


当ウェブサイトは、そんな彼の死を悼み、個人の企画でつくりあげた。運営を開始してすでに十年を過ぎている。より多くの方に知ってもらえればと、初心者にもご理解いただけるような趣向で情報を揃えたつもりでいる。


ようこそ、スタンリー・キューブリックと、彼が遺した映画の世界へ。

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